偶発的共創を生む環境

[v1.0–12/23 Released]

こんにちは、中垣拳と申します。この記事は@keihiguさん企画の研究留学アドベントカレンダー23日目です。

以下テンプレート

- いつ行ったか:2014年9月 〜 現在(いつの間にやら四年目…!)
- どこに行ったか:MIT Media Lab (Media Arts and Sciences)
- 何をやったか:HCI - 変形するインタフェースの開発とインタラクション・体験のデザイン
- どうやって行ったか:入試で修士課程→現在博士課程2年目

既に同アドベントカレンダーにおいて、吉田くんの記事がかなりの分量でメディアラボのイントロダクションとしてほぼほぼ全部カバーしていますが、僕は“超学際”とも言えるメディアラボの肝心の研究の様子について、具体的なプロジェクトも交えつつ、あまり日本語の記事などでは見れないようなところを書ければと思います。僕の研究についてはこちらで。

僕はMITの前は、慶応SFCというところで学部・修士を終えており、日本ではここも学際的な学び・研究を推進する先駆的な場所ではありますが、メディアラボの学際性はかなり質も色も違うことを最近特に感じています。

この記事では、学際的な研究を日々生んでいるMITメディアラボの様々な側面(場や環境、仕組みのデザイン)についてほんの一部を具体的な研究やプロジェクトの例を通して紹介させていただこうと思います。メディアラボの伝統的な部分から、かなり変わった最近の取り組みまで。。。

“超学際”という表現が適しているか微妙なところはありますが、メディアラボは(近年は特に)ただの学際でないのは確かなので、そんな雰囲気を共有できればと思います。メディアラボの先生方は、Anti-Disciplinary脱専門性)やTrans-Disciplinary(越専門性)などとも掲げていらっしゃるので、そちらもぜひご参照を。

メディアラボは、それぞれ異なる研究領域とビジョンを持った28の研究グループ、多様なバックグラウンドを持った150人程度の大学院生を中心に構成されています。その多様性を交差させるための工夫が、空間作りからラボ内のイベントにまで行き渡っているように感じます。特に2009年に新しくできたガラス張りの建物は、大きな空間をいくつかのグループで共有することでグループ間の壁を無くし、隣の研究の様子を見に行ったり、ミーティングの話が聞こえてきたり、絶賛進行中のプロジェクトを見せ合ったりするなど、風通しの良い雰囲気が作られています。この空間から、それぞれの研究室を超えて、学生主導で大小たくさんのコラボレーションが巻き起こっている場所です。

メディアラボの空間E14 Photo by Andy Ryan source

具体的な例として、僕自身もそんな研究のプロセスを体感できたのがChainFORMというプロジェクトでした。この研究はもともと僕が、線という形状を持った新しいコンセプトの変形するインタフェース(LineFORM)に関する研究を行なっていたところ、たまたま同じ時期に、他のグループのある学生がSensorTapeという自由に切り貼りしてカスタムなセンサーを作れるテープ状のデバイスの研究に取り組んでいることを知りました。LineFORMの時点で、たくさんのアイデアがあったものの僕のプロトタイプの技術だと見せれるコンセプトに限界がありました。ひものように自由に切り貼りできるアイデアもそのうちの一つで、そんな中彼のプロジェクトを知り、意気投合してすぐに具体的なコラボレーションに入りました。極小なフレキシブル基板の実装を得意とする彼から多くのことを学びましたし、かなり軽いフットワークで二人の研究を融合させていくプロセスは爽快で、プロジェクトのスケールは大きくないものの専門性の交差を体感できる実りある素晴らしい経験でした。

ChainFORM

SFCだと、学生同士で何か一緒にするということはなくはなかったと思いますが、それが研究レベルで行われているかというと微妙なところかなと思います。学生個人単位で、様々な授業を取りながら多様な専門性は学べるが、それぞれの研究は研究室の中で完結していることが多かった印象。(SFCは学部中心、メディアラボは大学院生のみという側面も大きいですが。)

メディアラボの建物を一歩外に出ると、当たり前ですがMITです。あらゆる技術分野の最先端の研究を行なっている人たちがごろごろいます。さらにボストンという土地柄も、ハーバードや様々なメディカルスクール、バークリーなどの音大等が軒を連ねる学術都市なので、様々なコラボレーションの機会があります。MITは他の大学とも単位交換制度があるので、例えば地下鉄で2駅乗るだけでハーバードの授業を受けに行くことができるのも魅力です。

プロジェクトベースでいうと、僕が所属する研究室のBioLogicという研究では、MITの化学工学系の研究室の研究員とのコラボレーションによって、バイオマテリアル(納豆菌)を活用した変形する布のファブリケーション手法の開発と、インタラクションデザインへの応用の提案というHCIの領域を押し拡げるような研究が行われました。

bioLogic

このプロジェクトでは、他の分野からも、素材の変形のシミュレーションソフトウェアを開発する建築系の学生、専用のプリンタを開発するハードウェアエンジニア、ロンドンRCAのファッションデザインの学生、スーツを身に纏って踊るプロのバレエダンサー、美しい映像に仕上げる撮影チームなど、様々な人材を集めて、プロジェクトを推進していく様は圧巻でした。主要メンバーのLining Yao(今年CMUにて自身の研究室を創設)やJifei Ouの仕事ぶりはいつも目を見張るものがあります。

もう一つこのプロジェクトで重要なのは、メンバー企業の存在です。ご存知の方もいらっしゃるかとは思いますが、MITメディアラボはメンバー企業(いわゆるスポンサー的な存在)から、ラボ全体として直接資金調達をして、最新の研究(publishされてないものでも)の共有やコラボレーションができるユニークな仕組みがあります。このbioLogicでも、熱や汗に応じて可変するスポーツウェアへの応用のため、当時メンバー企業だったNewBalanceとのコラボレーションがあり、彼らから身体の部位による細かな汗や熱のデータを提供してもらって、実際のウェアのデザインに反映させていました。

上の2点はある意味伝統的なメディアラボの研究のアプローチではあるのですが、ラボの所長でもある伊藤穰一氏(Joi)が掲げるAnti-Disciplinaryを体現する取り組みのひとつのが大変興味深いのでここで紹介します。

Director’s Fellowという制度は、Director(所長)のJoiを中心に、MITやボストンという環境にいても、繋がりえないような人物を、毎年10人程度選定し、メディアラボの研究室や学生とさらなる異領域とのコラボレーションを促進しようという試みです。少し前にサッカーの本田選手がMITの研究員になったという一見すると謎なニュースもありましたが、これもこの仕組みの一環です。他にも宇宙飛行士や、映画監督など様々な異分野の人物を引っ張ってきて、ワークショップ・授業や、トークセッション、遠征ツアーなどを行なっています。調べてみると日本語の記事だとこちらのJoiのインタビュー記事で少し触れられているようです。

また、Director’s Fellowなどの異領域のプロジェクトが発展することでInitiativeという、新しい研究トピックにフォーカスしたグループを作る枠組みがあります。この枠組みはそれぞれのInitiativeによっても取り組み方は全く異なりますが、研究室のグループの壁を超えてトピックに興味があれば参加することができるInitiativeにもあり、テーマを絞った共創研究プロジェクトを体系的に支援する仕組みになっています。テーマも、コミュニティバイオ、仮想通貨、DIY農業、海洋探検など幅広く、社会にも接点を持ったInitiativeが展開されています。

Director’s FellowやInitiativeに関係するような脱専門性とも呼べる2-3つの試みをここに紹介したいと思います。

  • 海へ、宇宙へ — Ocean Exploration & Zero Gravity Flight

近年のメディアラボでは、宇宙も活発なテーマになってきています。今年初めにはSpace Exploration Initiativeが設立され、8月には新しくSpace Enabledという研究グループの創設も発表され、まさにメディアラボ宇宙元年。そんな流れの一部に、学生にオープンに研究・実験アイデアを公募する形で、無重力状態を作れる航空機に搭乗する Zero Grabity Filghtというプロジェクトが先月ありました。こちらの記事から画像や動画などその様子も見られますが、無重力空間における新しいファブリケーション手法や楽器、身体を使ったゲームなどの試作・実験が行われていたようです。

Ken Nakagaki

Interaction Designer and HCI Researcher in MIT Media Lab

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